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出世欲コントロール研究所

会社員最後の難題「出世欲コントロール」。戦え、支配せよ。戦いはまだ始まったばかりだ。Written by Ultraboy.

出世欲コントロールという難題

 おそらく僕は恵まれた会社員だろう。会社で働き始めて丸6年が経ったとき確信したのである。今後、自分が会社でハッピーに働けるかどうかは、出世欲との付き合い方にかかっている、と。逆に言えば、他の問題(人間関係、業務の悩み)については、自分なりの付き合い方を見出しているし、それが上手くいっている。もちろん自分だけの力でそんなことはできない。会社員としてこれほど恵まれたことはあるまい。同僚の人の好さと寛容に感謝している。あとは自分次第。出世欲はほとんど自分だけの問題、自分がコントロールするべき問題だ。

 出世についてはよく考える。自分は果たして出世を望むのか。答えはその時々によって様々だ。昭和男児のように「出世は男の本懐であります」と叫びたいこともあるし、「出世なんかにエネルギーを使ってどうする?」と思うこともある。「結果的に出世したらいいじゃないか」と出世のことを考えないようにすることもあるし、「出世のために具体的に誰を抑えるべきか」と戦略を考えていることもある。

 僕は32歳。自己評価は当てにならないかもしれないが、自分の位置を明確にしておく。社内の同じ年齢層の人間を1番手(出世街道)、2番手(もしかすると管理職)、3番手(首切り候補)に分けると、僕はおそらく1番手の最下層に入っている。遅かれ早かれ何も変えなければ、いずれは2番手に落ちるだろう。

 この評価は、きわめて正当である。僕自身が僕を評価するとしても、ほとんど同じ位置にする。それなりに能力は高く人当たりもよいが、体調のこともありパフォーマンスの安定性が今一つ。バックアップが機能している状態なら役職に就けてもいい。しかしそれ以外の場合は、簡単に替えの利かない場所には置きたくない。僕は今まさに、そういう役職に就いている。

 会社員にとって出世と出世欲は、意外にデリケートな問題である。簡単に割り切れるものではない。正直に言って、僕は自分が出世を望んでいるのかどうかも分かっていない。入社当初は出世なんてどうでもいいと思っていたが、社内の人間関係に絡み取られ続けた結果、社内の出世も僕にとって自分の問題になった。これは良い/悪いの問題ではないだろう。会社にいる限り、自分のなかの出世欲と付き合っていかなければならない。そういうことだと思う。

 ある夜、会社からの帰る途中、電車の中で後輩の女性Dさんがこんな一言を言った。

「Tさん、本当にいいんですか。私すこし心配になってしまって…」

 Dさんは、彼女の同期である男性M君の出世を気にしてくれていた。後輩のM君は僕と同等の地位に就き、業務によっては僕に指示を出す立場となった。そのことをDさんは僕に「本当にいいんですか」と問いかけたわけだ。

 僕は返答に困った。Dさんが「本当にいいんですか」という言葉の意味が、最初わからなかったのだ。しかしDさんがポツリポツリと話すのを聞いているうちに、なるほどこれが出世という問題なのだということがわかってきた。出世とは、他者の目を通して起こる問題である。当たり前のことだが、そのことを意識していなかった。

 特に僕の場合は、Dさんという女性の目を通したことが大きかった。一言でいうと、僕はDさんが好きだったのである。僕はDさんの目を通して、はじめて出世という問題にぶち当たった。